マニュアルを通じて解決するアジェンダ(課題)とは?

日米の企業比較は様々なシーンでなされていますが、ちょっとドキッとした数字が以下です。

「米国のS&P500企業の時価総額の90%以上はすでに無形資産となっている。一方で日本企業のそれを確認してみると30%程度に過ぎない。」

これは、読み直すと優秀な米国企業は「意味的価値」を高めてきた一方で、
日本の企業は「モノ的価値」の世界から卒業できずにいるということだと思います。

では、「意味的価値」はどうやってたかめていけばいいのかというと、
伝説の起業家・投資家のピーターティールが面接で行う次の質問に大きな示唆があるように思います。

「世界に関するアジェンダのうち、多くの人は認めていないが、君自身が重要と考えているアジェンダは何か?」

残念ながら、今の私はピーターティールの面接では評価を得られそうにありません。

マニュアルを通じて解決したいアジェンダ(課題)として、以下を挙げていますがいずれも多くの人が認めているものです。

  • 業務効率化(非効率な業務)
  • 技術伝承
  • 改善体質づくり

当社が取り組むべきアジェンダについて、根本から考え直す必要がありそうですし、
そのことによって広がる可能性にワクワクします。

文化人類学とマニュアル

『菊と刀』の著者である、文化人類学者ルース・ベネディクトは、「レンズ」という比喩を用いて「行動の前提としての文化」を説明しました。

「どの国の人々も独自のレンズを通して世界を統覚している。そのレンズを通して与えられた世界はあまりにも自然なため、意識する(メガネをはずすこと)は難しい。そのような時は眼科医(文化人類学者)が必要になる。」

ルースは「菊と刀」を通じて、当時のアメリカ人に自分たちのメガネを意識することを訴えています。

マニュアルを作っているなかで、「自分たちが当たり前と思っていたことが、そうではなかった。」となることがよくあります。

日本企業による不祥事が相次いで起こっている背景にある各組織の文化(隠す文化、ごまかす文化、上に物言えない文化)、あまりに自然なレンズを通して与えられた世界だからこそ、問題が大きくなるまで誰も気が付かないのかもしれません。

マニュアルは万能ではないですが、レンズ(メガネ)を外すことのきっかけになれるような眼科医なれるようにしていきたいと思います。

情報と知識

野中郁次郎は、「知識経営のすすめ」のなかで情報の時代と知識の時代を以下のように分けています。

情報の時代

  • 有形(ハード)資産が価値の源泉
  • 工場(製品)が利益を生み出す
  • ホワイトカラーが情報処理
  • 階層化・分業、特例的協業
  • 定型的業務プロセス
  • ホワイトカラーは管理費:人員削減は利益創出

知識の時代

  • 無形(知識)資産が価値の源泉
  • 人と組織(知)が利益を生み出す
  • 知識ワーカーが知識活用・創造
  • 多元的組織・チーム、協業が基本
  • 非定型的業務、動態的プロセス
  • 知識ワーカーは「生産原価」の発想:投資すれば価値創造

組織の戦略を考える上でも、ナレッジマネジメントシステムを構築する上でも、情報と知識の違いを明確に意識するためにする必要があります。

AI と 戦争

今朝のニュースで以下の見出しを見ました。

米、大規模AI部隊を構想 中国念頭

具体的には、「小型で高性能、かつ安価」な空・陸・海のAIシステムを数千規模で展開する計画」とのことです。これらのシステムは、キャスリーン・ヒックス国防副長官によれば、「多数のセンサーを搭載し、太陽など実質的に無限の資源で動く自走式(自律)システムが無数に浮かび、ほぼリアルタイムで最新の信ぴょう性の高い情報が届く状況を想像してほしい」とのこと。

自律したドローン軍団が、敵の標的を探知して交戦する未来が近づいています。

これが、核による平和に代わる抑止力になるのか、人間の制御が及ばない新しい暴力になるのか、是非とも前者にすべき活動を進めるべきと考えます。

技術が問題を解決する

キリンのパッケージイノベーション研究所が、富士フィルムの剥離インクを使って、ぺりぺりとラベルをはがさなくていいペットボトルを開発したそうです。

ラベルそのものを無くすことで8%のプラスティックを削減できるそうです。

少しずつのことでもこういった技術が社会問題の解決に役立っているのを見ると嬉しくなります。

https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2023/0829_01.html

米国アマゾンで段ボールの廃止

米アマゾンが、梱包問題の改善に乗り出しているそうです。

EC業者では、コンテナやトラックに段ボールを効率的に積み込むために、特定のサイズの段ボールを利用するそうです。その為、大きな段ボール箱に大量の緩衝材と小さな商品という組み合わせに疑問を感じた人は多いと思います。

環境に対する顧客意識が高まる中、ほっておけない問題と判断したアマゾンでは、商品の約11%をアマゾンが追加の包装をしない(Ship in Own Container)状態で配送しているそうです(2023年8月時点)。

業務改善の重要なこととして、「そもそもそれは必要なのか?」を疑ってみることが重要ですが、その典型となりそうです。

アマゾンでは、「そもそも」からスタートし、環境問題、顧客の心理(環境問題への意識や段ボールを捨てる手間)を考慮し、実行を決めました。そして、梱包しないを実行するために、販売メーカーには梱包の改善に報奨金を出すといった対策まで実施し、壮大な実証実験と改善を続けているようです。とても興味深い取り組みだと思います。

個人的には日本でも歓迎したい動きです。どのくらいの時間差で日本での議論になるのかも含めて見守りたいと思います。

トランスフォーメーション赤字

ガートナーの調査によると、従業員が会社の改革をサポートする意欲は、2016年に74%だったにもかかわらず、2022年には43%に急落しているそうです。背景には、実施される業務改革が増えすぎていることにあるようです。(2016年で年2回程度の業務改革が2022では10件という数字も)

従業員によりよい働き方をしてもらうための各種の業務変革プロジェクトが、それ自体が従業員を疲弊させているという笑えない結果になっています。

これは、課題解決のためのプロジェクトを推進することが仕事であるコンサルタントにとっても肌感覚でつかめるものです。組織のトップの意向でプロジェクトを企画・立案して現場に入ると、びっくりするぐらいの温度差を感じることがあります。

「はいはい、また始まりましたね。今度はどんな手で現場を締めあげるのですか?」

「前回とん挫したプロジェクトと同じことをなぜ今回もするのですか?、学習能力ありますか?」

などなど、現場の方々からは有言無言の反応が返ってきます。

トップの意向を受け取りながら、どれだけ現場発の変革プロジェクトにしていけるかが、コンサルタントにもとめられる一番の技量になってきていると感じます。

マッキンゼーの7Sとマニュアル

マッキンゼーのフレームワークである7S

戦略(Strategy)、組織(Structure)、システム(System)、価値観(Shared Value)、Staff(人材)、スキル(Skill)、スタイル(Style)。

7Sの内、戦略、組織、システムをハードSといい、価値観、Staff、スキル、スタイルをソフトSと言います。もとマッキンゼーの名コンサルタントの名和高司さんは、この7つのSの関係を、以下のようにまとめられています。

「本来の狙いはソフトSを変えることにあるのだが、それを実現するために周りのハードSから始める、というのが、マッキンゼー的な組織変革のやり方だ。いわば、ハードSが手段、ソフトSが目的だ。そのなかでも、システム(仕組み)を重視する。じっくり漢方薬的に組織を変えるのは、システムだ。システムが変わることによって、スタイル(行動様式)が変わる。結果的にはスキルやスタッフ(人の能力と規模)もそれまでとは違ったところで蓄積されてくる。それらを通じて、中核となるシェアードバリュー(価値観)が変わっていくことを期待するのである。

名和さんは、システム(仕組み)を変えることによって、人材そのもの、スタイル、価値観までも変えることができるとされています。

このシステムとは、意思決定の方法、評価の基準、業務上でやるべきこととやってはならないことの見直しなどです。つまり、マニュアルそのものです。

現場を刺激するレバーを後戻りさせないための最後のハードSがマニュアルによる業務そのものの見直しということになります。

島田紳助さんによるお笑いの見える化

紳助さんが後輩芸人に「漫才の戦略」に関する講義を収録したDVDがあります。

その中でとても興味深いのが、紳助さんがおこなったお笑いの分析する方法です。

通常であれば、過去の動画や音声を沢山聞きまくると思うのですが、紳助さんは後輩にこのように伝えます。

「おもろい漫才を録画して観る、テープにとって聴くとかみんなもやってるでしょ。そんなの何遍やっても何もわからんわ。紙に書くの。ものすごい時間かかるけど全部紙に書き出す。それで毎晩寝るときに何が違うんやろって考えるの。そうすると色々とわかってくる」。

情報を視覚化し構造化することで分析を進めていたのですね。この分析から、「オチのパターンは8割一緒でいい。お客は気づかない」「面白くないネタを混ぜることで面白いオチが引き立つ」「間の数が多くなるほどリズムを保つのが難しくなる」といった法則を見つけ出していきます。

頭なのかだけで考えるのではなく、文字化すること、見える形にすることの重要性を教えてくれる講義です。

対立を理性で乗り越える

教育学者で、麹町中学校の変革などで知られる工藤勇一さんの書籍を読んで、はっとしました。

「日本の学校では、対立を「思いやり」や「愛」といった心の教育で解決しようとする。そうすると対話を通じた合意形成ができなくなる。」というものです。

確かに、「その時の気持ちはどうだったのか?」「その気持ちに対してどうすべきか?」「そこは思いやりの心をもって、、」といった話が多かったと思います。これは、みんなが同じ「思いやり」の価値観や「愛」を持っていればいいのですが、それぞれだとするとどうしてもすっきりしない部分が出てきますし、「空気を察しろよ!」という教育になってくると思いました。

心の教育だけではなく、理性をもった対話を子供のころからトレーニングする必要があるのだと感じます。